先端的技術と芸術的創造の融合を目指すユニークな教育機関IAMAS メディア表現の現在

開催概要

メディアアートの分野で世界的に知られる情報科学芸術大学院大学[IAMAS]は、1996年に岐阜県で創設されました。今年度で20周年を迎えるIAMASは、情報技術の革新とともに大きく変容してきた社会と並走するかたちで、先端的技術と芸術的創造との融合を理念に掲げながら、ユニークな教育研究活動を行ってきました。その中で、多くの国内外で活躍するアーティストやデザイナー、エンジニアや研究者を輩出してきました。
 本企画展「Calculated Imagination IAMASが発信するメディアアート」展では、6人のアーティストによるメディアアート作品の展示を行います。岐阜県大垣市を経由したそれぞれの出展作家の想像力は、その着地点さえもシミュレーション可能な世界へと変わっていく只中に、逆説として予測不可能なものへと開かれた世界の輪郭を描き出そうとしています。
 作品展示とあわせて、展覧会期間中に会場内でトークセッションやライブパフォーマンスなどのイベントを実施します。

  • 主催

    情報科学芸術大学院大学[IAMAS]
    ラフォーレ原宿

  • 日時

    2017年3月10日(金)- 2017年3月16日(木)
    11:00 - 21:00

  • 場所

    ラフォーレミュージアム原宿
    東京都渋谷区神宮前1-11-6 ラフォーレ原宿6階

IAMAS生誕20周年、Calculated Imagination展に寄せて三輪眞弘

 今から20年前、それまで暮らしていたドイツから僕は大垣に移り住み、創設されたIAMASという「メディアアートの学校」に赴任した。そこには、当時一部の総合大学にしかなかったインターネット環境があり、VRやCGをやるにはどうしても必要な高価なコンピュータが用意されていた。NTTインターコミュニケーション・センター(ICC)がオープンしたのはその翌年であり、日本の多くの大学の「メディアアート」に関係する学科はすべてその後に創られたという意味で、IAMASはこの分野の先駆けとなる研究教育機関だった。

当時「雰囲気」だけで使われていたこの「メディアアート」という言葉に多くの人々が未来に向けた明るい何かを感じていた。それは芸術関係というよりは、むしろ産業や政治の世界からの関心であったのかもしれない。友情だけで成り立っているような現代音楽の世界で活動してきた僕は、当時この「メディアアート」の世界で動くお金の大きさに目を丸くしたものだ。
 それから20年、お金をかけて最新テクノロジーの「魔術」を誇示するような作品はずっと減り、「メディアアート」はその言葉の定着と共に廉価で多義的、そして「内省的」なものになったと思う。そしてそれこそが、IAMASが創設以来、挑み続けてきた「メディアアート」のビジョンでもあった。つまり、既存の現代美術やコンピュータ音楽の亜流や拡張ではない、人間の「生きる技法」としての新しい「芸術」を「メディアアート」という名のもとに再定義することである。

高度なテクノロジーと莫大なエネルギーを生存の必要条件として存在している僕らに、今更どうして牧歌的で古典的な「美」など、語り得るだろう。「作品」とは学術的な「研究」なのか、芸術的な「創造」なのか。今求められていることは、それらを互いに無関係な価値体系として切り離すことではなく、むしろその双方が出会うところにこそ、人間の叡智があるという当然のことを思い起こすことであるに違いない。そのような信念、いわば「IAMASスピリット」の結晶が、二十歳を祝う今回の展示で紹介されることを僕は誇りに感じている。

デザインを主題としたアート伊村靖子

技術と社会の関係が変わろうとする時、常にトータル・デザインについての議論がさかんになる。例えば、アドルフ・ロースが『装飾と犯罪』(1908年)で展開したアール・ヌーヴォーに対する批判のなかに、議論の構図を読み取ることができる。ロースによればアール・ヌーヴォーの価値観とは、建築、工芸、アートを結合した総合芸術を指し、それは工業生産の技術を建築やアート(つまり人間の生)の側に奪還しようとする運動であった。ロースの批判はアール・ヌーヴォーの主観主義的(人間中心的)なトータル・デザインに対するものであり、その原理においては依頼主の個性はすべての装飾、すべての形、すべてのカケラにまで及ぶ。かわりにロースが提示したのは機能主義的な美意識であり、それは後にモダニズム建築の起源とみなされることとなった。

 

こうした議論に続けて、ハル・フォスターは『デザインと犯罪』(2002年)において次のように述べている。


「この古い議論が新しい響きをもって迫ってくる今日においては、美的なものと実用的なものは融合しているだけでなく、商業的なものへとほとんど包摂され、すべてのものが−—建築プロジェクトや美術展だけでなく、ジーンズから遺伝子ジーンまであらゆるものが−—およそデザインと見なされているようだ」*1。    

時代を経て、現在のデザインが映し出すものとは何だろうか。かつてのロースによる批判が新しい響きをもつ背景のひとつに、デジタル・デザインを背景としたポストヒューマン(ポスト人間中心)概念の登場がある。2030年までに安価な価格帯のラップトップコンピュータが、人間の知能に匹敵するコンピュータ処理能力を備えることになるだろうと予測する説*2があるが、テクノロジーが社会に及ぼす影響に限界を設けるのは、人間の社会的・心理的規範とも言える。人工知能が人間の知能を凌駕することが予測される時代に、いかにして「文化的余地=あそびの空間」が立ち現れるのだろうか。

 

メディアアーティストの役割とは、テクノロジーに対して我々が無意識に抱いている規範に問いを投げかけることであろう。本展では、IAMASを卒業した6人のアーティストの作品を「デザインを主題としたアート」として読み解く。本展を通じて、技術と社会の関係に対して今まさにどのような問いかけができるのか考える機会になれば幸いである。

イベント

  • DOMMUNE:ライブストリーミングチャンネル

    ともに設立から20周年を迎えるICCとIAMASが、ライブストリーミングチャンネル「DOMMUNE」で、これまでの20年の歴史をそれぞれの活動を通じて振り返ります。

    開催日時:
    2017年3月8日(水)19:00-24:00
    19:00~20:30 ICC Presents「ポエティクス/ストラクチャー」&「オープン・スペース 2016
    メディア・コンシャス」開催記念番組「ICCとメディア・アートの20年」
    出演:畠中実(ICC)、赤松音呂、市原えつこ、Yang02、谷口暁彦 モデレーター:齋藤あきこ

    20:30-22:00 IAMAS Presents「Calculated Imagination」展開催記念番組「IAMASが発信するメディアアートの現在」
    出演:クワクボリョウタ、菅野創、石塚千晃、伊村靖子 モデレーター:高尾俊介(IAMAS)

    22:00-24:00 ICC & IAMAS & DOMMUNE Presents「The Medium is the Massage LIVE !! / BROADJ#2172」
    LIVE:おおしまたくろう、The Breadboard Band、澤井妙治、谷口暁彦 DJ:畠中実

    http://www.dommune.com/reserve/2017/0308/

  • 「アーティスト・トーク」:出展作家によるトーク・セッション

    IAMASの20周年出展作家のアーティストを交えて、出展作品やIAMASでの制作活動に関するトークセッションを実施します。

    開催日時:
    2017年3月11日(土)14:00-16:00
    出演:クワクボリョウタ、三原聡一郎、石塚千晃
    モデレーター:伊村靖子

    2017年3月12日(日)14:00-16:00
    出演:菅野創、山城大督、村山誠
    モデレーター:安藤泰彦

  • 「NxPC Live in Tokyo」:DJ/VJによるクラブイベント

    NxPC.Labは、クラブやライブにおけるアーティストと観客の相互作用によってもたらされる場の臨場感を拡大し、ネットへも拡散させるためのメディアテクノロジーの実現を目指した研究機関です。東京の別会場で、会場内で鑑賞者とDJ/VJが相互で操作できるようなインタラクティブなアプリケーションを用いたクラブイベントを開催します。

    開催日時:
    2017年3月10日(金)18:00-21:00
    出演:yamawalker、Scott Allen、エブリオブギガス feat. MC あすなろ、菅野創+やんツー

    関連イベント「NxPC Live vol.27」
    2017年3月11日(土)22:00-29:00
    CIRCUS Tokyo
    nxpclab.info/vol.27/

  • 「IAMASONIC BEYOND」:ライブ・パフォーマンス

    IAMASでは開学以来、アルゴリズミックコンポジション(アルゴリズムを用いた作曲手法)による音楽作品や、電子音響やメディア技術を表現のベースにした音楽家やパフォーマンスユニットが誕生し、各分野で活躍しています。

    開催日時:
    2017年3月11日(土)18:00-21:00
    出演者:The BreadBoard Band、松本祐一、安野太郎、山本一彰

  • 「3Dアーカイブセッション」:展示空間の3Dアーカイブ

    IAMASで行われている3Dスキャニング技術に関するアーカイブ研究(「3Dスキャニング技術を用いたインタラクティブアートの時空間アーカイブ」)の一貫として、本展覧会の時空間アーカイブとすることを目的としています。期間中、3Dスキャニングによる各展示作品や来場者の動きを時間的な繋がりをもったアーカイブの作成を行い、鑑賞者の動きや作品の振る舞いを記録します。会期中、随時開催します。

アクセス

統括 金山智子
キュレーション 伊村靖子 高尾俊介
ディレクション 高尾俊介
制作進行 上山朋子
広報 伊藤晶子 佐野和哉
運営担当 北村茂範 佐々木智子
デザイン Semitransparent Design
Web 加藤明洋
展示什器 冨田太基 杉山雄哉
記録 丸尾隆一
20周年企画展示 瀬川晃 伊藤晶子 高見知里
展示設営 伊藤友哉 竹内環 田部井勝 時里充
 ヌリマイマイティ・アディリジャン 
丸山透 八嶋有司
スタッフ 北詰和徳 竹村望 嶋田元菜妃 山本美里