エミリー・ウェイル

エミリー・ウェイルはブラウン大学で哲学を学んだ後、1997年にニューヨーク大学(NYU)のインタラクティブ・テレコミュニケーションズ・プログラム(ITP)を卒業。在学中、パロアルトのインターバル・リサーチ社でインターン奨学研究員として、デジタルメディアの新しい製品の構想、設計、プログラミングに携わった。卒業後、現在インターバル・リサーチ社の研究員として、NYUのITPで研究に従事している。彼女は10代の少年少女にコンピュータ技術を、ニューヨーク市のニュースクール・フォー・ソーシャル・リサーチで成人向けにホームページデザインを、そして3歳の子供達にスキーを教えてきた。コンピュータに向かっていない時は、陶芸を楽しんでいる。

[セルフポートレート]

私の作品は、創造的な表現を行なうために特別にデザインされた、新しいコンピュータ・インターフェイスを使っている。コンピュータ・インターフェイスは、もともとは計算のために作られ、キーボードとマウスは正確さのために作られたものである。これと対照的に、新作「セルフポートレート」では、観客の身振りをとらえる自然な入力装置としてビデオカメラを用いている。
「セルフポートレート」は、ビデオカメラの映像から情報を引き出してスクリーン上にパターンを作り出す。プログラムはカメラの前で動くすべてのものの境界だけを検出し、この輪郭を入力として使う。多数の入力点から絵を作り出すため、カーソルの一つの点による明瞭さと比べると、非常に違った印象を与える。
「セルフポートレート」では5つの異なるプログラムを体験できる。まず取り込まれたカメラの映像がスクリーン上を動いて、方向が変わるたびに延びたり縮んだりしながら軌跡を残すもの。次に、動きが木炭によるスケッチのような印象を残すもの。残りの3つの状態は、カメラの前での動きによって、スクリーンを横切る幾何学的なパターンが展開されるが、それは全身によるフィンガー・ペインティングのようでもある。これらはコンピュータのクリエイティブな使い方への実験であり、スクリーンに現われるイメージは、アナログの世界をデジタルの領域と融合する。この作品はコンピュータを、我々の計算機能の側面だけでなく、情動的、審美的な側面まで、今まで以上に人間を表現するツールとする試みである。
美を認識するというのは極めて人間的なこと。私が何かを美しいと思う時にそれを感じるもので、それは私が誰で、どこにいるのかということや、私の世界の見方を反映するような本能的な反応である。経験はいろんな要因の微妙な組合せの結果生じるものだとしても、感じること自体は単純なことのように思われる。
私たちは、いままで可能だった以上の計算能力をもつマシンを作りだしたが、計算することもまた人間的なことだというのは、つい忘れがち。私たちは自然に数えることを学ぶ。それは分類し、理解するための合理的で普遍的な方法である。計算能力を拡張するコンピュータの設計に成功したことは、この世界に大きなインパクトを与えてくれた。私たちが受け入れる現実は、ますます数で表わされうるものになってゆく。
だがコンピュータは、私たちの審美的な能力をどれほど拡張することができるだろうか。人間に与えた計算能力の、その半分も美しさを作り出すことができるだろうか。こうした疑問が、あなたが体験する、「セルフポートレート」へとみちびいたのである。