読者の皆様もすでに御存知の通り、'95年1/18〜3/5の「サウンドトロニクス・フィールド」は震災のために中止となりました。1/16の時点では、ホワイエに24台のコンピュータを設置し、プログラムのパラメータの調整を終えてオープンを待つばかりといった状態でした。しかし、残念ながら幻の展覧会となり、1/21のパフォーマンス"巻上公一VSサウンドトロニクス"も実施不可能でした。その後、「サウンドトロニクス・フィールド」は、3/8〜4/16に東京多摩センターの「T-BRAIN CLUB」で展覧されました。今回はそのリポートを含め、赤松正行氏の作品や活動に触れます。
──赤松さんが音楽やコンピュータと関わりだしたのはいつ頃からですか。
赤松:最初に音楽をやりだしたのは高校ぐらいの時で、テープレコーダーやアナログ・シンセを使ってサウンド・コラージュみたいなものを作ったりしていたんです。またシーケンサーが好きでいろいろな形で使ってたんですが、そこのろのシーケンサーはメモリーできる音の数もまだまだ少なく思った通りのことができなかったのですが、コンピュータならいろいろなことができると聞いて買ってみたんです。その当時はまだコンピュータを使う=プログラムを書く、という時代だったのでわりと自然にプラグラミングの世界に入っていったんです。
──赤松さんはマックのソフトウェアの開発や本の執筆など多方面で活躍されていますが、マックを使いだしたのはいつ頃からですか。
赤松:今から6、7年前、マックIIがでたころからマックを使いはじめました。僕がやっていることはコンピュータの基礎的部分のプログラムではなく、コンピュータが持ついろいろな機能を使ってアプリケーションを作ることがほとんどなので、コンピュータが持つライブラリーの優秀さが非常に重要になってくんるです。で、マックの場合ツールボックスが膨大にあって整備されているので使い続けています。
──最近は今回の「soundtronics field」のようにインスタレーション形態の作品が多いようですが、インスタレーションやサウンド・パフォーマンスを行いだしたのはいつ頃からですか。
赤松:だいたい3年くらい前からですね。最初のころはMIDIを使って音源を鳴らしたりするものが多かったのですが、今のような形態になってきたのは、マックがだんだん安くなってわりと手に入れやすい状況になってきたので、マック自体が大量になければ成立しない作品に関心がうつってきたからなんです。
──soundtronicsは今回のようなインスタレーションを想定して開発されたのですか。
赤松:soundtronics自体はインスタレーションに使用するよりかは、自分のパフォーマンスでサウンドをオートマティックにリミックスをするツールとして考えたものだったんです。でもプログラムが完成してからは、これが集団になって音をコントロールしたときのおもしろさを構成してみたいと思い、今のようなサウンドインスタレーションの形態になったんです。プログラムは1台のマックでも可能なのですが、周りの音響をみて自分の動きをコントロールしていくようになっているので、ひとつひとつのマックがいわば生物というかオートマトンというものになるわけです。で、それぞれの相互作用で集団が生み出す音響が生まれてくる。そういったところを見ていきたいいうのが今回の基礎プランだったんです。
──赤松さんの作品はソフトウェアよりの発想によるものが基本といえるのですか。
赤松:そうですね、soundtronicsもマックに同時に録音再生ができる能力があることが出発点でしたし。それをいかして何がやってみようと。それで、マルチトラック・レコーダーやディレイなどと違って同時録音再生が可能でなければできないことをやろうと思ったんです。
──MAXとかMIDIを使ってインスタレーションを作るひとは結構いますが、マック自体を使って何かを行うというアーティストは非常に少ないですね。どちらかというと楽器先行型というものが多いですが。
赤松:ひとつにはシステムを小さくしたいという思いがあるんです。普通だと、いろんな機能をてんこ盛りにしたりとか、リック・ウェイクマンみたいに機材を山積みしたりとかしますよね。そういう方向ではなく、例えばニュートンのような小型の機械がぽんとあってそれがサウンドを作りだすというといったイメージの方が好きですね。あと、作品を難解なものよりできるだけ単純明解にしていきたいということも考えていますね。
──一般にコンピュータを使った作品はインタラクティヴ、それも1対1対応的なものが多いですが、soundtronicsはそういった作品とは大きく異なりますね。
赤松:センサーを使ったりした作品などインタラクティヴな作品をみて思うのは、いろいろな外部からのトリガーを受けてからの反応が、恣意的すぎるものが多いと思うんです。soundtronicsは声なら声がトリガーになるわけですが、そのトリガーによって呼び出されるものが僕が恣意的に作ったものではなく周りの音響や来場者のだす音で、なおかつトリガーに対してストレートに対応しているのでもないですから、その点が違うのではないかと思ういます。
──それにマシンが多数あることによって、自然に複雑さがでてくるわけですし。
赤松:森のざわめきのような。葉っぱ一枚一枚のすれ合う音自体は大しておもしろみがあるものではないけれども、それが大量にあって森のざわめきにになるというように、単純なものを組み合わせて芳醇なものを作るというか。そういった方向には大変興味があります。
──サウンド・アートといわれる作品の多くは美術出身のアーティストによるものが多いですが、赤松さんは視覚的なスタンスは重要視していますか。
赤松:視覚的な要素はあまり重要ではないですね。希薄になればなるほどいいというか。ただ、僕の場合もちろん美術から出発した訳ではないけど、ミュージシャンだった、というわけでもない。そのどちらでもないというか。
──ギデオン・メイのようにメディア・アートでの開発者的というか、エンジニアリングを基盤としているアーティストに近いですね。
赤松:どちらかというとそうですね。たとえば新しい環境が提供されるとそれを調べて、そこから触発されるものを作品にするといったように。新しい音源が登場して新しい音楽形態が生まれたり、新しい画材がでて新しいスタイルが登場するといったような形に近いですね。
──コンピュータをまったく使わないサウンドパフォーマンスは考えられますか。
赤松:soundtronicsの場合、コンピュータというよりかは機械に近いと思うんです。もちろんCPUがありプログラミングされているものではあるんですが、その形をどんどん機能を単純化していってサイコロのような状態の音響装置となればいいと思っています。コンピュータではあるけれども、コンピュータ性を追及しているわけではないです。
──かといって普通の音楽のようにCDとかのパッケージにまとめるのが最終目的でもないですね。
赤松:soundtronicsを使ってCDをだすかとは考えてないですね。どちらからというと僕の作品は「場」を作るという発想のほうが正確かもしれませんね。soundtronicsもコンピュータというものがぜったい必要だというわけではなく、最終的にはあの機能を持つ透明の物体になることが理想ですね。今のヴァージョンもレベルメーターがあったりとかわりとコンピュータっぽい面構えになっていますが、決してその必要があるというわけではないので、そこらへんは検討して行きたいとは考えています。
──理想的にはスピーカーとマイクだけがある空間ですね。
赤松:それさえもないなんにもない空間が理想ですね。音のみがざわざわしているような。ただ、現実的にはマックをつかわなければならないし、当然その他の機材もいるので、サウンド・インスタレーションの形態をとっていますが、その形態に決して固執しているわけではないです。
──最終的には「音の場」を作品としていくわけですね。そうすると会場の空間的要素が重要な意味をもってきますね。
赤松:実際にはスペースに併せて計画を練り上げていくことが大きなウェイトを占めるし、その部分が一番おもしろいですね。
──その意味では神戸で予定していたのと東京の展覧会では異なる部分もあるんでしょうか。
赤松:神戸の場合、セッティグを終えてさあ明日オープンってときにドッカンときたわけですが(笑)。今回のとの一番の違いは東京にはあった来場者が鳴らしてみる楽器類がなかったことです。ジーベックの方が空間も広いのでそれなりの効果がでるとは思っていました。コンセプトのうえでは音響素材をまったく限定しない神戸の方がよりsoundtronicsの基本的なものと近いとはいえますが。ただ、今回の楽器を置くのも決してネガティブなことではなくヴァージョンのひとつと考えています。
──今後の計画についてお聞かせください。
赤松:今回のライブのように音楽家とのセッションもあるし、いろいろなシチュエーションでのsoundtronicsを使用してみたいですね。それから先ほどのようにsoundtronicsが集団になるとどう音を作っていくのかに非常に関心があるので、もっと多い台数でのインスタレーションはぜひやってみたいです。それと、コンミュも含めて、コンピュータ通信を使った事をやっていきたいですね。soundtronicsも基本的にはプログラムだけなので、通信を使ってプログラムを送って世界のあちこちで同時にパフォーマンスを行うとか、普通のオフィスで行うとかいろいろなとことを試してみたいですね。