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概要「Timetracks」は時間経過を伴うビデオ映像を紙片に印刷する作品である。一般的にビデオ装置に比べて印刷装置の帯域幅や情報量は狭小であるため、映像をそのまま印刷することは難しい。そこで、この作品では、映像の各フレームから一部を取り出し、時系列に従って並べることで印刷画像を生成し、ロール紙などに連続的に印刷を行う。「Timetracks」は、そのシステムと出力結果の総称であるが、リアルタイムに処理と出力を行う装置として「Timetracks Live mini」も制作された。また、ポータブル・デバイスでのリアルタイム画像ジェネレータである「Timetracks.app」が一般公開されており、直接印刷は行なえないが、その場での創造と鑑賞が可能になっている。 内容「Timetracks」は任意のビデオ映像から静止画を生成し、印刷物として出力する。ビデオ映像から印刷画像を得る方法としては、画像から1ピクセル幅の横長または縦長の画像を取り出すライン・スキャン方式、画像全体を1ピクセルから数ピクセルの幅に縮小する圧縮方式、数フレームから数十フレームの画像をピクセルごとに蓄積する長時間露光方式などを用いる。 「Timetracks」はハードディスクに保存した映像ファイルを使用し、適切な処理を選択調整しながら、最終的な画像を決定した後に印刷を行う。元素材は1時間程度の映像が多いものの、時間長が限定されるわけではない。印刷物は処理方法や使用するロール紙によって異なるが、多くの場合、幅89mで、長さは5メートルから10メートルに及ぶ。出力された印刷物は、横長のまま壁に貼ったり、棚に載せて展示を行う。また、巻物のように巻き取った形での展示も可能である。 一方、「Timetracks」のライブ版である「Timetracks Live mini」では、この装置の前面に埋め込んだビデオ・カメラが捉える映像を逐次処理し、出力を行う。プリンタにはオート・カッターを取り付け、ロール紙への印刷を短冊型に切り取って出力する。短冊の大きさは縦幅89m、横幅210mmとし、撮影日時を添えて約3分ごとに出力する。つまり、1時間あたり20枚、6時間の展示ならば120枚の印刷物が得られる。これらの短冊は、装置の下部に設けた棚の上に積み重なっていく。 さらに、「Timetracks.app」では、直接印刷が行なえないものの、鑑賞者はポータブル・デバイスのユーザとしてリアルタイムに画像を生成し、鑑賞することができる。このアプリケーションでは、内蔵カメラから得られる映像から1秒間に1ラインの割合で画像を蓄積し、全体では30分間1800ラインの画像を生成する。生成されている画像は逐次表示され、タッチ・スクリーン上でスクロールして全体像を見るようになっている。 考察「Timetracks」および「Timetracks Live mini」は、いずれもビデオ映像をロール紙などに静止画として印刷する作品である。ビデオ映像は時間経過を伴う動画であり、その全内容を把握するには撮影された時間と同じ時間だけ映像を再生しなければならない。 そこで、この作品では一定の処理手順に従ってビデオ映像を静止画に変換し、印刷を行う。つまり、ビデオ映像という実体を持たない存在を、紙片上の印刷物という手で触れることができ、褪色や破損もあり得る実体へと変換していることになる。 当然のことながら、この変換は不可逆変換であり、情報量の大幅な減少を伴う。しかし、この変換によって、事象の一覧性や時間的変化の顕在化など、映像を異なる観点から鑑賞できるようになる。言い換えれば、一定の手法に基づいてビデオ映像から情報を抽出し、時系列を平面展開することによって、時間と事象を再構成していることになる。そして、出力結果には新しい造形意匠が立ち現れ、本来のビデオ映像では認識できない様々な事柄を発見できるはずである。 また、これらの作品は入力としてはビデオ映像であるが、出力としては印刷物であり、額縁に入れたり、壁に掲げることができる伝統的な形式の静止画になっている。これは、多くのビデオ・アートやビデオ・インスタレーションが出力としてディスプレイやプロジェクタを用いるのに対して、珍しい形式であると言える。 これに加えて、「Timetracks Live mini」は、ほぼリアルタイム形式の印刷物であり、大量に印刷されるが同一の内容はないという点にも特徴がある。そして、「Timetracks Live mini」から出力された印刷物は、鑑賞者が持ち帰ることを想定しており、複製ではない作品を多くの人が安価に所有できる形態になっている。 さらに、「Timetracks.app」では伝統的な展示形態を離れ、作品は鑑賞者の掌で展開する。このアプリケーションは無償で提供され、汎用的で一般的なデバイス上で動作するので、より多くの人々が鑑賞できると同時に創造に加わることになる。従って、作品の内容自体は鑑賞者に委ねられており、作者は画像生成の処理方法を提供しているに過ぎない。このような状況から、どのような結果が生まれるかに注目したい。 機材構成Timetracks
Timetracks Live mini
Timetracks.app
展示・公開 会期:2005年3月6日〜21日 「Timetracks Live! @ TAKEAWAY Festival 」展示 会期:2006年3月29日〜31日 「Timetracks.app 」Web公開 公開日:2008年2月17日 |