クリスタ・ソムラー/ロラン・ミニョノー

クリスタ・ソムラーとロラン・ミニョノーは、IAMASの客員芸術家であり、京都のATR知能映像通信研究所での研究員でもある。人工生命や複雑系、通信やインターフェイス・デザイン、インタラクティビティの新しい形態などをテーマにコンピュータ・システムについての研究を進めている。彼らのインタラクティブなコンピュータ・インスタレーションは、「エポック・メイキング」(伊藤俊治)なもので、「自然なインターフェイス」の使用を創始し、人工生命と進化を基にした画像処理を使った、「対話」のための新しい言語を作り出している。

常設展示作品としては、「ライフ・スペイシーズ」NTTインターコミュニケーション・センター(東京)/「成長する植物」ZKMメディア・ミュージアム、カールスルーエ(ドイツ)/「トランス・プラント」東京都写真美術館(東京)/「A-Volve」NTTプラネット(名古屋)/「フォトトロピーII」白石市情報センター(白石)/「VERBARIUM」カルチエ財団、パリ(フランス)などがある。

[霧の特急列車]

「霧の特急列車」は、列車や車、飛行機などの乗り物から、窓外をよぎる風景を見ながら展開する、旅のメタファーのインタラクティブなコンピュータ・インスタレーションである。高速で移動するとき、風景は詳しく確認できない。通り過ぎる風景は、ただ、かたちと輪郭と色が集積された画像となり、霧のような印象になってしまう。
この作品では仮想の列車によるインタラクティブな旅ができる。観客は流れゆく画像を眺め、その動きを止めて子細に見ることができる。列車の窓に対し観客が実際に働きかけたときにのみ、風景の中のイメージに影響を与えることができる。窓に触れた手をどのように動かすかによって、窓外の風景が変化する。きまぐれに展開していく画像は、観客の動きに反応して、次々に新しく、ユニークなイメージへと変容し、データが生み出す風景から半ば現実的で、半ば幻想的な旅が生み出されていく。
作品はそれぞれ1つの窓と2つの座席をもつ3つのコンパートメントからなり、同時に6人までの観客が体験することができる。「霧の特急列車」の座席にゆったりと座り、手で窓に触れながら、観客は窓外を見る。窓を左右や上下になぞると、窓の上の画像も同じ方向に動き、光や反射光や霧、影からできた、新しい抽象的な風景が刻々と生まれてくる。これらの画素のふるまいは、観客の手の動きの頻度や速さ、方向によって決まる。進化する画像生成システムによって、次に現れてくる風景の最終的な構成が決定される。手の動きを止めたまま窓に触れていると動画は静止する。一定時間窓に触れていないと、そのパターンとかたちはゆっくりと姿を消す。風景は見る者の存在とインタラクションに直接結びついているのである。
「霧の特急列車」は以前の作品と同様、新しいタイプの画像生成を目指している。それは観客の動作と結びついた、遺伝プログラミングと進化による画像処理を用いた作品である。その画像はもはやアーティストによってあらかじめ決定され、プログラム化されたものではなく、観客のインタラクションによって、非決定的で、非線形な(決まった順序では起こらない)画像を生み出す作品である。

この作品は、IAMAS(岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー)において開発された。
協力:天龍工業株式会社(岐阜)、JR東海
インターフェイス制作:山元史朗