「フォーカス」は大きく分けて2つの部分から成る。1つは大きく投映される映像で、もう1つは観客が映像を操作するインターフェイス。スクリーンには写真が投映されていて、立ち並ぶ人々が、またその左右両側の街路には家が見える。この写真の小さいものがインターフェイスとして使われている。全体ははじめ焦点の合っていない写真のようにぼやけている。観客が小さな写真のどこかを指で触れると、焦点(フォーカス)を変えることができ、投影された映像上の、触れた部分にすぐ焦点が合う。ある人物や家に焦点を合わせるのは、多数の中からの誰か、あるいは何かを選び出すことの比喩でもある。作品の中の人々はすべて、さまざまな国の私の友人や知人、そして親戚である。ある要素に焦点があっているとき、手元の右側にあるボタンを押すと、別の大きな写真が投映され、左側のボタンを押すともとの写真に戻る。「フォーカス」における2つめのインタラクションは、上に述べられたものとは逆に機能する。多数の中からどれかを選び出すのではなく、「絞り」を変えることで、作品の中の部分の間の関係性を発見することができる。手元のスライドするつまみで絞り値を大きくしていくと(F1.4、2.8、4など)、映像の被写界深度が拡がり、隣接する領域までがシャープになる。作品の中で人々と家、その友人や知人、または同じ家系の親戚は、互いに最も近い焦点深度におかれている。したがって、被写界深度を増すことによって観客は、作品の中で最初に選んだ人物と、その近くにいる人々との間の関係を発見することができる。また、絞り値を変えると、独立した大きな写真も違うものに変わることもある。
作品の中のある人物に焦点を合わせ、絞りをF1.4にして右側のボタンを押すと、その人1人が写った大きな写真が現われる。例えばそこで絞りをF2.8に変えると、大きな写真は、最初の人物がその親類あるいは友人と、2、3人で写った写真に変わることがある。また絞り値をF11にすると、最初に選んだ人物が知人たちに囲まれている十数人のグループ写真が現われるかもしれない。このシステムはこうしてコンピュータゲームのように機能し、観客は焦点距離と絞り値を適当に組み合わせることで、次々に別の写真を見ていくことができる。