incubatorインキュベータ : コンピュータとネットワーク再考概要:incubatorは、ネットワーク化された50台のコンピュータによって表される映像と音響の作品です。incubatorには次の2つの目標を掲げて制作されました。 1) 50台のコンピュータ、すなわち、50個のディスプレイが映し出す映像と100個のスピーカーが奏でる音響によって空間を構成すること。これによって、一般的な映像音響装置では得られない多層的な表現を可能にすること。 2) 50台のコンピュータが相互に情報交換を行なえるようにネットワークに接続し、ネットワークの構造や動作を映像や音響として表現すること。これによって、現代のネットワーク社会を反映し、ネットワークと人間との関係を考察すること。 詳細:まず、incubatorは、50台のコンピュータを用い、おびただしいまでの映像と音響によって構成される空間的な装置です。映画やテレビなど今日一般的な装置では、単一の画面と2つ(あるいは数個)のスピーカーによって映像と音響が出力されます。これに対して、incubatorでは50台のコンピュータが持つディスプレイとスピーカーによって映像と音響を出力します。これは、日常の空間において無数の光源と反射体が存在し、無数の音源が存在していることに似ています。 また、来場者は会場全体を見渡し、会場全体の音響を聞くことができますが、会場の広い範囲に分散してコンピュータが設置されているので、来場者の位置によって見え方や聞え方が異なります。また、あるコンピュータに近づけば、個別の映像と音響に注目することもできます。従って、来場者は会場内を歩くという能動的な行為によって、全体としても部分としても作品を様々な観点から鑑賞することが可能です。この点においても、incubatorは、受動的に作品を鑑賞できるテレビやオーディオ装置とは異なります。 次に、incubatorでは全てのコンピュータがネットワークによって接続されています。内蔵マイクが捕らえる周囲の音や、一定の規則によって生起するイベントをトリガーとしてコンピュータが動作し、映像と音響を発生する同時に、ネットワークを通じて他のコンピュータに動作状況を示す情報を送り出します。情報を受け取ったコンピュータは、その情報に基づいて映像と音響を変化させ、さらに他のコンピュータへと情報を送ります。つまり、50台のコンピュータは相互に情報を交換しながら自律的に動作する個体であり、全体として一種のコロニーを形作ります。これは自律分散型のネットワークと考えることができます。 さらに、50台のコンピュータとは別に、ホスト・コンピュータを設置し、同じネットワークに接続します。人間のパフォーマはホスト・コンピュータを操作し、50台のコンピュータを個別に、あるいは一括してコントロールすることができます。また、ホスト・コンピュータから各コンピュータの動作状況を調べることも可能です。これは、集中管理型のネットワークと言えます。つまり、incubatorは自律分散型と集中管理型というネットワークの典型的な形態に基づいて動作するわけです。 以上のようにして、incubatorは、来場者とコンピュータの関係、コンピュータ同士の関係、パフォーマとコンピュータとの関係を、空間的に配置した50台のコンピュータと、それらを相互接続するネットワークを通じて、映像と音響の体験として表現します。 このincubatorは、1999年3月10日より3月14日まで、ジーベックホール(神戸)にて開催されました。 システム構成:会場には、図のようにiMacコンピュータを50台設置します。各コンピュータは特別製のスタンドを用いて画面が上になるように設置します。また、マウスやキーボードは繋がず、内蔵マイクだけを入力装置として用います。そして、内蔵ディスプレイと内蔵スピーカーが出力装置となります。 各コンピュータからは電源ケーブルとEthernetケーブルを天井のバトンへと垂直に渡します。天井のバトン上には、電力を供給する電源タップと、Ethernetネットワークを形成するハブを設置します。実際には8ポートまたは16ポートのハブを数個接続することによって、仮想的なひとつのハブとして使用します。 コンピュータは約2メートルの間隔を開けて設置しており、ケーブルは床を這うことなく天井へ向かっているので、来場者はコンピュータの間を自由に歩き回ることができ、周囲を見回したり、ひとつのコンピュータを覗き込むことができるようになっています。 さらに、50台のコンピュータからは少し離して、ホスト・コンピュータを会場内に設置し、ホスト・コンピュータもネットワークに接続します。ホスト・コンピュータは各コンピュータへのファイル配布や動作調整のために用いるとともに、パフォーマンスにおけるコントローラとしても用います。 なお、コンピュータの数は変更可能であり、20台から50台までの範囲で増減することができます。
参加作家:設置面積:18メートル×12メートル 必要機材:50台のiMacコンピュータ クレジット:制作:赤松正行 PDF書類:
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